取引に必要な書面
媒介・代理契約の種類
媒介契約には、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の3種類があります。
1、一般媒介
例えば、AさんがB社に頼みますが、その一方で、重ねてC社にも頼むこともできます。また、自分で見つけた相手と直接取引することも自由です。なお、一般媒介では、AさんがB社の他にC社にも依頼をしたときは、B社に対し、他の業者名を明示する義務がある場合と、ない場合があります。
2、専任媒介
B社にしか依頼できないタイプです。この場合は、重ねて依頼はできません。ただし、自己発見取引は可能です。
3、専属専任媒介
AさんはBさんにしか依頼できません。また、自己発見取引の禁止の特約がつくタイプです。
「代理」の場合も上記の3種類がそのまま当てはまります。
売買・交換の媒介・代理契約の規制
宅建業法では、依頼者保護の観点から、一般媒介に関する規制を最もゆるく、専属専任媒介に関する規制を最も厳しくしています。ただし、一般・専任媒介契約の共通の規制として、媒介契約の目的物である宅地建物の売買または交換の申し込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければなりません。そして、専任媒介の場合に規制される事項は、有効期間・更新、報告義務、相手方の探索に関することの3つです。一般媒介であれば、これらの規制はないのですが、専任媒介や専属専任媒介については規制があります。なお、これらの規制に反する依頼者に不利な特約は無効です。
・有効期間等の制限
専任媒介契約や専属専任媒介契約の場合は、期間は3ヶ月を超えてはならず、4ヶ月と決めても3ヶ月に短縮されます。そして、依頼者からの申し出がなければ、契約は更新されません。従って、自動更新する旨の特約は無効です。また、更新後の期間も3ヶ月以内です。
・業務処理状況の報告義務
専任媒介契約の場合は2週間に1回以上、専属専任媒介契約の場合は1週間に1回以上の報告義務があります。また、この報告は口頭や電子メールでも可能です。なお、この報告は、当事者が宅建業者同士であってもしなければなりません。
・相手方の積極的探索義務
これは、より早く、広く相手方を見つけることができるように、指定流通機構(レインズ)に登録しなければならないという義務のことです。従って、媒介契約締結後の一定期間内に、一定事項をレインズに登録する必要があります。
一定期間とは、専任媒介契約の場合は媒介契約締結の日から7日以内、専属専任媒介契約の場合は契約締結の日から5日以内です。この「契約締結日」については、初日は算入されません。さらに、「7日以内」「5日以内」には、その業者の休業日は含まれません。
登録すべき、一定の事項は、物件の所在・規模・形質、売買すべき価額や評価額、主要な法令上の制限、専属専任媒介契約であればその旨とされています。所有者の氏名・登記された権利の種類、その内容などは不要です。
レインズに登録したときは、登録を証する書面をもらいますが、宅建業者はそれを遅滞なく依頼者に引き渡さなければなりません。そして、契約が成約した場合も遅滞なく、レインズへその旨を通知しなければなりません。通知すべき事項は、登録番号、物件の取引価格、売買または交換の契約が成立した年月日です。
売買・交換の媒介・代理契約書の交付義務と書面の記載事項
トラブルを防ぐために、宅建業者は、売買・交換に関する媒介・代理契約を結んだときは、遅滞なく、物件や契約内容について書面を作成して、依頼人に交付しなければなりません。なお、この義務は売買・交換契約の場合のみです。書面には、宅建業者が記名押印します。書面には記載事項が9つあります。
- 物件を特定するために必要な事項
- 宅地建物の売買すべき価額または評価額
- 媒介契約の種類
- 媒介契約の有効期間及び解除に関する事項
- 指定流通機構への登録に関する事項
- 報酬に関する事項
- 違反に対する措置
- その媒介契約が、国土交通大臣の定めた標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの区別
- 既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査を実施する者の斡旋に関する事項
重要事項の説明義務
・誰が、誰に対して、いつまでに行うのか
重要事項の説明を義務付けられているのは、宅建業者です。そして、その説明を物件を取得しようと考えている人に対して行う必要があります。宅地建物の売買契約の場合は買主、交換契約の場合は、両当事者です。そして、賃借契約の場合は、借りる人です。そして、この説明は、契約が成立するまでの間に行う必要があります。
・重要事項の説明の方法
書面に記載をし、その書面(「重要事項説明書」)を相手方に交付して行います。この書面を「35条書面」といいます。
1、説明について
宅建業者は宅建士を使って説明をしなければなりません。なお、この場合は専任の宅建士であるか、一般の宅建士であるかは関係ありません。そして、宅建士は、重要事項の説明をするときには、お客さんが請求をしなくても宅建士証を提示しなければなりません。また、重要事項説明書には、責任の所在を明らかにするために、宅建士の記名押印が必要です。
2、説明に関する注意点
1つの取引に、複数の業者が関与する場合は、すべての業者に説明義務が課されていますが、1つの業者が代表して説明したり、関与した業者がそれぞれに分担して説明することも可能です。なお、その際の説明の誤りについては、すべての業者が共同で責任を負わなければなりません。
説明及び書面の交付の場所については、どこで行っても構いません。
宅地建物の取得者が宅建業者の場合は、35条書面の交付だけで足り、宅建士による説明は不要です。ただし、売買の対象が、「不動産信託受益権」の場合は、取得者が宅建業者であっても、宅建士による説明が必要です。
宅地建物の賃借の代理・媒介に係る説明にあたっては、厳格な要件の下、テレビ会議等のITを活用することが可能となりました。なお、この場合でも宅建士証の提示は必要です。
重要事項説明書の記載事項
まず、宅地建物の売買・交換と賃借を区別することがポイントです。そして、不動産信託受益権等の売買の場合についても確認が必要です。また、説明事項に関しては、物件に関する事柄と取引条件等に関する事柄に分類できます。さらに、マンションについては、マンション独特の追加的な説明事項があることに注意する必要があります。
・宅地建物の売買、交換の場合
1〜7が物件に関する事項で8〜15が取引条件等に関する事項
- 登記された権利
- 法令に基づく制限
- 私道に関する負担に関する事項
- 飲料水・電気・ガス等の供給施設、排水施設の整備状況
- 未完成物件の場合の工事完了時の形状・構造
- 国土交通省令・内閣府令で定める事項
- 既存の建物であるときは、建物状況調査等に関する事項
- 代金・交換差金以外に授受される金銭の額及び目的
- 契約の解除に関する事項
- 損害賠償額の予定または違約金に関する事項
- 手付金等の保全措置の概要
- 支払金・預かり金を受領する場合の保全措置の有無・概要
- ローンの斡旋の内容及びローン不成立の場合の措置
- 契約内容不適合を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結、その他の措置の有無・概要
- 割賦販売契約の場合の現金販売価格、割賦販売価格、預金・賦払金の額、支払い時期・方法
・区分所有権(マンション)の目的である建物の場合の追加記載事項マンションの場合は上記の説明事項に追加して以下の事項を説明しなければなりません。なお、売買・交換の場合は、すべて説明する必要がありますが、賃借の場合は、3と8だけ説明すれば足ります。
- 敷地に関する権利の種類及び内容
- 共用部分に関する規約の定めがあるときは、その内容
- 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容
- 専有使用権に関する規約の定めがあるときは、その内容
- 当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用、通常の管理費用その他の当該建物の所有者が負担しなければならない費用を、特定のものにのみ減免する旨の規約の定めがあるときは、その内容
- 計画修繕積立金の規約の定めがあるときは、その内容、及び既に積み立てられている額
- 区分所有者が負担する通常の管理費用の額
- 建物及び敷地の管理が委託されているときは、その委託先の氏名・住所等
- 当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容
・宅地建物の賃借の場合
- 登記された権利
- 法令に基づく制限
- 私道に関する負担に関する事項
- 飲料水・電気・ガス等の供給施設、排水施設の整備状況
- 未完成物件の場合の工事完了時の形状・構造
- 土砂(津波)災害警戒区域に関する事項
- 造成宅地防災区域に関する事項
- 建物の石綿の使用の有無の調査の結果の記録に関する事項
- 建物の耐震診断に関する事項
- 既存の建物であるときは、建物状況調査等に関する事項
- 借賃以外に授受されている金銭の額・目的
- 契約の解除に関する事項
- 損害賠償額の予定また廃役員に関する事項
- 支払金・預かり金を受領する場合の保全措置の有無・概要
- 台所・浴室・便所等の整備状況
- 契約期間及び契約更新に関する事項
- 定期借地権・定期借家権などの関する事項
- 宅地建物の用途や利用の制限
- 金銭の契約終了時の精算に関する事項
- 管理の委託を受けた者の氏名・住所等
- 契約終了時における宅地条の建物の取り壊しに関する事項の内容
- 区分所有権の目的である建物の場合の専有部分のようとや利用の制限に関する規約の定めがあればその内容、管理の委託先の氏名・住所等
・不動産信託受益権の売買
原則として、信託の対象である原資産の宅地建物などに関して、買主に対して、宅建士をして、一定の事項を重要事項として説明しなければなりません。なお、一定の事項とは、売買・交換の場合の説明事項である物件に関する事項や契約内容不適合を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結等の措置を講じている場合のその他の措置の概要、区分所有建物の追加的説明事項などです。ただし、次の場合は説明不要です。
1、金融商品取引法2条31項に規定する特定投資家等を信託の受益権の売買の相手方とする場合
2、信託の受益権の売買契約の締結前1年以内に売買の相手方に対し、当該契約と同一の内容の契約について書面を交付して説明をしている場合等
37条書面の交付
37条書面とは、宅建業に関する取引における契約書面のことで、その目的は、契約当事者間のトラブル防止です。
・作成、交付について
37条書面の作成・交付の義務車は、不動産に関する契約の専門家である宅建業者です。例え相手方の承諾があっても省略はできません。作成や交付自体は宅建士が行う必要はありません。
契約の両当事者に交付します。なお、業者間の取引でも、媒介や代理等を行う場合で、買主等が業者の時でも、37条書面を作成・交付しなければなりません。
契約成立後遅滞なく作成・交付を行わなければなりません。これを怠れば、監督処分、さらに罰則の対象になります。
37条書面には、宅建士が記名押印をする必要があります。1つの取引に複数の業者が関与する場合、すべての宅建業者が、宅建士をして記名押印させる義務を負っています。また、業者間でもこの記名押印は必要です。そして、専任か一般か、もしくは、重要事項の説明書面に記名押印をした宅建士と同じか否かは関係ありません。
・書面の記載事項
1〜6は必要的記載事項、7〜13は任意的記載事項
- 当事者の氏名・住所
- 宅地建物を特定するため必要な表示
- 代金・交換差金・借賃の額、支払い時期、支払い方法
- 宅地建物の引き渡しの時期
- 移転登記申請の時期
- 既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項
- 代金・交換差金・借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときはその額、授受の時期、目的
- 契約の解除に関する定めがあるときはその内容
- 損害賠償額の予定または違約金に関する定めがあるときはその内容
- 代金または交換差金についてのローンの斡旋の定めがあるときは、ローンが成立しない時の措置
- 天災その他不可抗力による損害の負担(危険負担)に関する定めがあるときは、その内容
- 契約内容不適合を担保すべき責任、または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置について定めがあるときはその内容
- 宅地建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときはその内容